会長挨拶
第32回日本妊娠高血圧学会
学術集会会長
金沢医科大学医学部産婦人科学 教授
牧野田 知
たとえ疾患の名称や定義が変わろうとも、同じ遺伝子を受け継いで暮らしているヒトにあっては、その子孫も同じ疾患に悩み苦しむのが普通であろうが、妊娠高血圧症候群に関しては状況がいい意味で異なっているようである。手元にある平成21(2009)年度刊行の「母子保健の主なる統計」をみると、今から60年程前の昭和25(1950)年には妊産婦死亡の33.9%(1396名)が当時の妊娠中毒症が原因であったのに対し、本学会の第1回大会が開催された昭和55(1980)年には22.6%(73名)へと減少し、平成20(2008)年には2.6%(1名)にまでなっている。このような結果になったのは、ひとえに我々の先達たちの努力と周産期医療の進歩で母児共に救命可能なターミネーションが可能となったためであろう。
最近、臨床経験は増えないものの年齢を重ねてくると、何事も若かりし時と対比する症候群にかかりつつある。その立場からみると、妊娠高血圧症候群による母体死亡は上記のような理由でほぼ皆無になったと思われるが、妊娠高血圧症候群そのものも私が医師になったころは常に複数の入院患者がいたのに、現在はごく稀にしかみられず、発症そのもの、特に重症の発症が減少しているように感じられる。妊娠そのものが減少しているから妊娠高血圧症候群の発症も絶対数的に減少しているのは当然であるが、どうしてあまり重症の妊娠高血圧症候群をみなくなったのだろうか。冒頭に述べたように遺伝子がおなじであるなら、発症変化の原因は環境なのだろうか。現在の生活環境は糖尿病、脳卒中、心臓病、脂質異常症、高血圧、肥満などの生活習慣病をもたらしよくない環境であるとの認識が広く世間には広まっているが、ひょっとすると妊娠高血圧症候群の発症抑制にはよりよい環境なのではないだろうか。
以上のような妄想をもっている会長のもとで平成23(2011)年10月21日(金)・22日(土)の2日間、日本妊娠高血圧学会の学術集会を金沢市にて開催させていただきます。金沢市での開催は本学会でははじめてのことであり、渋滞などという言葉とは無縁のゆったりとした伝統文化あふれる街で、妊娠高血圧症候群について2日間ゆっくり語り合おうではありませんか。皆様方のお越しを医局員一同とともにお待ち申し上げております。