日本妊娠高血圧学会Q&A

-1妊娠高血圧症候群とはどんな病気ですか?
妊娠中毒症と同じ病気ですか。
-1 妊娠前にはなかったのに、妊娠中期以後になってからお母さんに高血圧、蛋白尿、浮腫(むくみや1週間に500g以上の体重増加)のいずれか一つ、あるいは2つ以上が現れる病気を以前は「妊娠中毒症」と呼んでいました。これは、お母さんや赤ちゃんにいろいろな障害を起こすことが多いので、昔から産婦人科医が妊婦さんの診察において一番注意を払ってきた妊娠中の異常です。

ところが、医学研究が進むにつれて、お母さんや赤ちゃんの障害に直接関係する異常は、「高血圧」が中心であることがわかってきました。言い換えると、血圧が正常である限り、蛋白尿あるいは浮腫だけ、またはその両方が認められたとしても、それだけではお母さんや赤ちゃんに急激な異常の起こることは少ないということです。したがって、高血圧をもつ妊婦さんは血圧が正常な妊婦さんとは区別し、より慎重に管理されるべきといえます。

そこで、私たち日本妊娠高血圧学会は約10年前より、当時の「妊娠中毒症」という病名を廃止して、高血圧が認められる場合に焦点を絞った病名を新たにつけることを検討してきました。その結果、日本産科婦人科学会が正式に2005年4月から「妊娠高血圧症候群」という病名を採用することになり、それ以後急速にこの病名が普及しました。

なお、「症候群」というのは一つの疾患というわけではなく、いくつかの互いに関連性のある病的状態をまとめた疾患名で、「妊娠中毒症」も症候群としての名称だと考えていただけます。つまり、「妊娠中毒症」の中で、高血圧を伴う病的状態をまとめた病名が「妊娠高血圧症候群」だといえます。

日本産科婦人科学会では、「妊娠高血圧症候群」を「妊娠20週以降、分娩後12週まで高血圧がみられる場合、または、高血圧に蛋白尿を伴う場合のいずれかで、かつこれらの症状が単なる妊娠の偶発合併症によるものでないもの」として定義しています。診断についての詳しい説明はQ2「どのように診断するのですか?」をご覧下さい。

なお、現在、は、高血圧がなく蛋白尿のみの場合を「妊娠蛋白尿」と呼び、浮腫のみの場合を「妊娠浮腫」と呼びます。なお、妊娠が終了したあとも高血圧や蛋白尿が残ってしまう場合は、妊娠に伴う異常としての妊娠高血圧症候群ではなく、母体にもともと存在していた異常であるとみなされます。もともと母体が健康体であった場合でも妊娠高血圧症候群高血圧や蛋白尿が消失するまでの期間は、以前の「妊娠中毒症」の病名を使っていたときは6週間とされていましたが、最近では、その期間を分娩後12週まで延ばすこととされました。逆に、妊娠20週までに高血圧や蛋白尿が認められる場合は、妊娠とは関係なく、もともと高血圧や腎疾患が存在していた可能性が高いと考えることができます。

  妊娠中毒症 妊娠高血圧症候群
発症時期 妊娠20週∼分娩後6週 妊娠20週∼分娩後12週
診断に
必要な症状
高血圧・たんぱく尿・浮腫 
どれか1つ以上
高血圧・たんぱく尿 
高血圧は必ずともなう

ところで、「妊娠高血圧症候群」の定義のなかに「かつこれらの症状が単なる妊娠の偶発合併症によるものでないもの」という意味深な文がありますね。これはどういうことでしょう。
たとえば、「妊娠中に交通事故にあってビックリした時の高血圧」や「妊娠中に高血圧になり、調べてみたら体のなかに血圧を上げる腫瘍がみつかった。」という場合は妊娠高血圧症候群ではありませんよということです。

-2どのようにして妊娠高血圧症候群と診断するのですか?

-2 妊娠20週以降、分娩後12週までに高血圧がみられる場合、または高血圧に蛋白尿を伴う場合に妊娠高血圧症候群と診断します。ただし、もともと妊娠前から高血圧や蛋白尿があると診断されている場合は高血圧合併妊娠や腎疾患合併妊娠という病名になります。そして、分娩後12週までの間に高血圧合併妊婦に蛋白尿が、あるいは腎疾患合併妊娠に高血圧がそれぞれ新たに加わった場合に、妊娠高血圧症候群(加重型妊娠高血圧腎症)という診断となります。

したがって、妊婦さんの血圧測定と尿検査で尿中蛋白の測定が妊娠高血圧症候群診断の基本です。
*なお、おおよそ6時間以上の間隔をあけて2回以上収縮期血圧が140mmHg以上または拡張期血圧が90mmHg以上あるいはその両方の場合に高血圧と判断します。

また、通常妊婦健診で実施されている尿検査で蛋白尿1+の結果が得られた場合は、精密検査すると真の蛋白尿ではないことがよくあります(つまり、偽陽性)。真の蛋白尿の診断には、24時間の尿を集めて一日の蛋白尿を正確に測定(一日量が300r以上の場合に真の蛋白尿と診断)する必要があります。なお、目安としては尿中の蛋白尿とクレアチニンという物質の比を取り、おおよそ0.3r/mgクレアチニンの場合に真の蛋白尿と推定することも利用されています。

-3どうして妊娠高血圧症候群になるの?
-3 現在のところ、はっきりとした原因は分かっていません。
したがって、効果のある予防法も見つかっていません。
ここでは、現在最も有力と考えられている原因についてお話ししますが、まだはっきりとしたものではなく、今後の研究によって変わっていく可能性が高いことをご了解下さい。



1)病気の起こる原因

妊娠高血圧症候群になる原因
最も有力と考えられているのは、妊娠の初めの頃(妊娠15週まで)に胎盤の血管が正常とは異なった作られ方をしてしまう、という説です。

人間の胎盤は非常に不思議で、他のほとんどの動物にない特徴をもっています。胎盤はお母さんの子宮にくっついて、細胞がその壁の中に侵入していくのですが、その時に子宮側の血管(らせん動脈といいます←女性の月経時に出血するのはこの血管が破れるからです)の壁を一度こわして、より多くの血液が赤ちゃんに流れるように血管の壁のしくみを作り直します。他の動物で同じようなしくみを持つのは、人間と同様に脳の発達した高等猿類のほか、カピバラだけです。

妊娠高血圧症候群では、この血管の壁の作り直しが十分ではない可能性があり、実際に患者さんの子宮を検査したところ、そのような作り直しが不十分だった血管が見つかっています。この結果、胎盤でお母さんから赤ちゃんへの酸素や栄養素の受け渡しがうまく行かなり、赤ちゃんの発育が悪くなります。そうすると、お母さんのからだは赤ちゃんの発育に必要な栄養や酸素をできるだけ多くムリに流そうとして高血圧がおこってしまうというのが妊娠高血圧症候群の起こるメカニズムだと考えられています。

ただ、赤ちゃんの発育に問題のない妊娠高血圧症候群も多くありますし、逆に赤ちゃんの発育が悪くても妊娠高血圧症候群にならない例もよくあります。さらに、その血管の壁の作り直しがうまくいかない理由については、もともとの子宮の環境や遺伝子の型などが原因と考える研究者もいますが、明らかではありません。

したがって、この病気の最も上流にあたる原因については、全く何も分かっていないと考えてよいでしょう。ただ、病気が悪化していく経過については多くの研究がされていて、いろいろな環境が組み合わされた結果であることが明らかになってきています。

2)病気が症状として現れる原因

病気が症状として現れる原因
妊娠高血圧症候群のこわさは、お母さんと赤ちゃんに多くの合併症を引き起こすことにありますが、そのほとんどは「血管の壁が傷むこと」で説明できると言われています。細かい原因については分からないところも残されていますが、実際に医療の現場で大きな問題となる重症の妊娠高血圧症候群については、必ずと言っていいほど血管の壁に起こる異常が含まれています。詳しくは上記の図をごらん下さい。

これに加えて、この病気になりやすいとされる人、たとえば肥満のある人、年齢の高い人については、これらの症状がより現れやすくなる因子があると考えられますが、これについては今も研究が進められています。
-4どんな人が妊娠高血圧症候群になりやすいのですか?

-4 高年齢、肥満、病気のある妊婦(高血圧、腎疾患、糖尿病など)さん、初産婦さん、前回妊娠高血圧症候群にかかった妊婦さん、前回の妊娠からの期間が5年以上経過している妊婦さん、多胎妊娠、妊娠がわかって初診した時の血圧が高い妊婦さん、感染症(尿、歯周病)がある妊婦さんなどが報告されています。

  • 母体年齢
  • 妊娠高血圧症候群は、35歳以上で発症率が高くなり、40歳以上になるとさらに危険度が高まります。一方、15歳以下でも発症率は高くなります。
  • 初産婦
  • 妊娠高血圧症候群は、初産婦(今回が初めてのお産の妊婦さん)に多くみられます。

  • 肥満
  • BMI 25以上や非妊娠時体重 55kg以上は妊娠高血圧症候群になりやすいといわれています。
    なお、BMIは非妊娠時の体重 (kg)を身長 (m)で2回わると計算できます。
    たとえば妊娠前の体重が60kgで身長が160cm(1.60m)での場合、
    60÷1.60÷1.60=23.4です。

  • 妊娠初期の血圧
  • 非妊娠時または妊娠初期の収縮期血圧が 130〜139 mmHgあるいは拡張期血圧 80〜89 mmHgの妊婦さんの場合、高血圧とは言えませんが、その後妊娠高血圧症候群が発症する率は高くなるといわれています。
-5母が妊娠中毒症だったのですが、遺伝しますか?

-5血のつながりのある方に妊娠高血圧症候群や高血圧の方がいらっしゃる場合、妊娠高血圧症候群がおこるリスク(危険性)は上昇します。
海外の研究ですが、血のつながりのある方に妊娠高血圧症候群のいる妊婦さんでは、いない妊婦さんに比べて妊娠高血圧症候群になるリスクが3倍高くなることが報告されています。また、血のつながりのある方に高血圧の人がいる妊婦さんでは、妊娠高血圧症候群の頻度が2〜5倍高くなることが報告されています。
しかし、実際にはこうした遺伝的な要因だけではなく様々な要因(栄養、ストレスなど)が組み合わさって発症します。ですから、遺伝的なことだけに目をむけるのではなく、妊娠中の過ごし方に気を配ることで妊娠高血圧症候群にかからずにすむことがあるということを覚えておきましょう。 。

-6前回妊娠高血圧症候群といわれました。
今回の妊娠は大丈夫ですか?

-6どんな人が妊娠高血圧症候群になりやすいかはQ4に書かれていますが、前回妊娠高血圧症候群だった妊婦さんもやはりその中に含まれるのです。 わが国の全妊婦さんのうち妊娠高血圧症候群にかかる割合は4%程度と言われていますが、初めてのお産の時に妊娠高血圧症候群だった妊婦さんが今回の妊娠でまた妊娠高血圧症候群となってしまう確率は半分くらいとずいぶん高くなります。前回妊娠高血圧症候群でなかった方に比べて約7倍なりやすいという報告もあります。特に、前回妊娠30週よりも前に妊娠高血圧症候群になってしまった妊婦さんや、週数にかかわらず重症の妊娠高血圧症候群と診断された妊婦さんの場合には再発しやすいと言われていますので、今回の妊娠でも十分な注意が必要です。

一方、前回のお産で妊娠高血圧症候群がなかった妊婦さんは、今回妊娠高血圧症候群となる可能性はきわめて低くなります。

-7元々血圧が高くて降圧剤を飲んでいますが、どんな問題が起こることがあるの?薬は飲み続けていていいの?

-7 多くの高血圧女性の妊娠例を集めた医学統計のデータによれば、重症の妊娠高血圧症候群(すなわち加重型妊娠高血圧腎症)の発症、胎児発育不全、常位胎盤早期剥離などを起こす頻度がもともと健康な妊婦さんに比べると高いことが知られています。特に、降圧剤を飲んでも十分に(おおよそ、150/100以下に)血圧が下がらない場合や、前の妊娠で重症の妊娠高血圧症候群やそれと関連した病気(胎児発育不全、常位胎盤早期剥離、子癇(Q8参照)など)を経験されている方は、上記のような異常がおこる危険性が特に高いと考えられますので、妊娠する前に産婦人科医に相談されることをお勧めします。

ただし、血圧を下げる薬をのんでいる高血圧女性でも、妊娠初期から中期にかけては薬をのまなくても正常血圧で経過する場合があり、薬を服用しながらも血圧が安定している場合も含め、比較的順調な経過で健児が得られることは少なくありません。重要なことは、高血圧に伴って心や腎などの臓器に障害が起こっていないかを十分に調べておくとともに、妊娠中のお母さんの血圧、蛋白尿、血液検査所見、自覚症状を丁寧に観察することです。

高血圧で、アンギオテンシン変換酵素(ACE)阻害薬やアンギオテンシンU受容体拮抗薬、β受容体拮抗薬(ブロッカー)と言われる種類の薬を飲んでいる妊婦さんの場合には、お薬の変更が必要です.妊娠中に使われる降圧剤としては、メチルドーパやαβブロッカー、Caブロッカーと言われる種類の薬が一般的です。主治医とよく相談されることをお勧めします。

 

-8妊娠高血圧症候群になるとどんな問題がおこるのですか?

-8妊妊娠高血圧症候群になると、お母さんと赤ちゃんの状態を更に悪くする病気を合併することがあります。代表的なものに、子癇、脳出血などの脳血管障害、常位胎盤早期剥離、HELLP症候群、肺水腫などがあります。

  • 子癇
    • 「妊娠20週以降に初めて起きたけいれん発作で、てんかんや脳炎、脳腫瘍、脳血管障害、薬物中毒を原因としないもの」を言います。子癇は、妊娠中、分娩中、分娩後のいずれの時期にも起き、そのほとんどが妊娠高血圧症候群の妊産婦さんに起きます。
    • 子癇は「急激におこった高血圧によって脳の中の血液が増え、脳の中にむくみが起きて、けいれんを起こす」と考えられています。
    • 子癇が治まらない場合は、脳のむくみが進行して脳ヘルニアという状態を来し、赤ちゃんのみではなく、お母さんの命も危なくなる状態に陥ってしまいます。
    • けいれんを起した妊婦さんの中には脳出血などが起きている場合もあります。したがって可能な場合はCTやMRIで脳出血があるかないかを診断し、脳出血がある場合には脳神経外科医あるいは神経内科医と一緒に治療することが必要となります。
    • 子癇がおさまらない場合や赤ちゃんの状態が悪い時には、できるだけ早く赤ちゃんをお腹から出してあげることが必要です(帝王切開が必要なこともあります。)お母さんも赤ちゃんも助けたいのですが、どうしてもの時にはお母さんの命が優先されます。

  • HELLP症候群
    • 妊娠の後半からお産の後に発症しやすい疾患です。血液中の赤血球がこわされ(溶血=英語ではHemolysis:頭文字H)、肝臓の機能が悪くなり(肝酵素の上昇=英語ではElevated Liver enzymes:頭文字EL)、血小板が減少(英語ではLow Platelet:頭文字LP)してしまう病気です。診断が遅れると血液の凝固障害や全身の多くの臓器がダメージを受けて致命的になります。妊娠高血圧症候群と関係があると言われますが、原因はまだまだ不明な点が多いです。
    • 全ての妊産婦さんの0.2-0.6%、妊娠高血圧症候群の妊産婦さんの4-12%、子癇の50%に発症します。
    • 症状として、突然の上腹部痛、心窩部痛、嘔気嘔吐などがあります。血液検査などを行い診断します。したがって、他の内科的な病気と区別しにくいことがあります。
    • 治療の基本は、できるだけ早く赤ちゃんをお腹の外に出すことです。HELLP症候群の20%に血液の凝固障害や多臓器不全を併発し、それらに対する治療が必要となります。

  • 常位胎盤早期剥離
    • 子宮の正常な位置に付いている胎盤が赤ちゃんが生まれる前にはがれてしまう病気です。全ての妊婦さんの0.5-1.3%に起こり、妊婦さんの死亡率は5-10%、赤ちゃんの死亡率は30-50%との報告があります。
    • どうして起こるのかには不明な点も多く、発症を予知することは不可能です。妊娠高血圧症候群で起きることが多いと言われていますが、妊娠高血圧症候群でない妊婦さんにも起こることが少なくありません。
    • 主な症状は性器出血、腹痛、子宮の異常な硬さ(板状硬)、胎児の動きの減少で、胎盤のはがれた部分が大きいと、出血性ショックを起こしたりお腹の中で赤ちゃんが亡くなることになります。
    • 常位胎盤早期剥離では、お母さんの全身状態や赤ちゃんの状態などから総合的に判断し、治療の方針を決定します。お母さんが出血性ショックや凝固障害も起こしている場合には、これらに対する治療を優先すると同時にできるだけ早く赤ちゃんをお腹の外に出すようにします(帝王切開のこともあります)。お産後、子宮の収縮が良くない場合には出血が多くなりますので子宮をとらなければならない時もあります。
-9お腹の赤ちゃんにはどんな影響があるのですか?

-9妊娠高血圧症候群、とくに重症の場合には、子宮や胎盤での血液が流れにくくなります。お腹の赤ちゃんは、お母さんから胎盤を通して、酸素や栄養をもらいますから、赤ちゃんは栄養不足、酸素不足になってしまうことがあります。

栄養が足りなくなると赤ちゃんは十分に育たなくなり(胎児発育不全)、普通よりも体重の少ない赤ちゃんが生まれたり(低出生体重児)、酸素が足りなくなると低酸素症になりそれが長く続くと脳にも影響がでることがあります。最悪の場合にはお腹のなかで赤ちゃんが亡くなってしまう(子宮内胎児死亡)こともあります。
また、子宮収縮がおこると、子宮から胎盤に向かう血液の流れがさらに悪くなるので、赤ちゃんが酸素不足に陥り、胎児の心拍に異常が起こる状態(胎児機能不全)が起こりやすくなります。そうなれば、できるだけ早く胎児を取り出さねばなりません(帝王切開が必要になることが多いです)。

-10どんな症状が出てきますか?気をつける症状について教えてください。

-10自覚症状に乏しいのが、この病気の難しいところです。重症になっていても妊婦健診で異常が見つかるまで自分では気がつかないことも多く、言われてみれば頭痛や倦怠(けんたい)感、ねむ気などの症状があったなあと気がつくことも少なくありません。脱水になったり腎臓の働きが悪くなるとおしっこの量が減少して急にむくんできたり、子宮が収縮する感じ(硬くなったと感じること)などが出てくることがありますが、いずれも医師の診察と検査が必要になります。

子癇(Q8参照)が差し迫っていることを示す症状として知られているのが、持続する強い頭痛、目が見えなく感じたり目の前で花火が光るように感じる目の症状、あるいはみぞおちのあたりが急に痛くなる腹部症状の三つです。血圧の高い妊婦さんがこれらの内の一つでも自覚したら、直ちに厳重な管理が必要です。

HELLP症候群(Q8参照)の代表的な初発症状としては、気分が悪くなって吐き気がしたり、実際に吐いたり、みぞおちのあたりが痛くなるなどがありますが、胃腸症状と勘違いされて胃薬を出されて帰宅し、重症になるまで気づかれなかったコワイ例も報告されています。その他、肝臓の働きが悪くなることで黄疸が出てきたり、肺に水がたまると、動悸・せき・呼吸困難が出てきます。いずれも産科とは関係のなさそうな症状ですので注意が必要です。まずは、20週以降の血圧が上がってきたり尿に蛋白が出てきたと医師に言われた場合にはこうした症状に気をつけてください。

 

 

-11むくみが激しいのですが、これは妊娠高血圧症候群ですか?どうしてむくみが起こるのですか?

-11むくみ(浮腫)とは、血管の中の水分が、血管の外の組織にしみ出して、たまってしまった状態をいいます。妊婦さんのむくみは特別なことでなく、約3割の妊婦さんに見られると言われています。  

もともと、妊娠したお母さんの体では、赤ちゃんの成長・発育やお産の時の出血にそなえるために、体の水分量が増加します。この体の中の水分増加には、女性ホルモンなど、いくつかのホルモンが影響しています。これらのホルモンのひとつにエストロゲンというホルモンがありますが、エストロゲンには、血液中の水分を血管の外へしみ出しやすくさせる性質があります。このようなホルモンのはたらきによって、妊娠した女性ではむくみがおきやすくなるのです。さらに、妊娠後期の大きくなった子宮は下半身から心臓に帰っていく静脈の血液の巡りをさまたげるので、特に足にむくみがおこりやすくなります。  

現在のところ、血圧が正常で、症状がむくみだけの場合は、妊娠高血圧症候群ではないとされています。しかし、妊娠28週未満で全身にむくみがあるような場合は、腎臓や心臓の病気などが隠れている可能性があります。顔までむくんでしまう、指輪がきつくて抜けなくなったなど、症状が強い場合にはかかりつけの産科医にご相談なさってください。

-12妊娠中にこうすれば妊娠高血圧症候群にならないという方法(予防する方法)はありますか? やっぱり食べ過ぎや塩分に注意すべきですか?

-12妊娠高血圧症候群のリスクが高い妊婦さんに対し、妊娠高血圧症候群がおこらないように予防する試みはいくつも行われています。しかし残念ながら、現在のところ「この方法なら明らかに予防できる!」と誰もが認める方法は見つかっていないのが現状です。
 
たとえば、一般に食べ過ぎたり塩分を取りすぎたりすると妊娠高血圧症候群になりやすくなることは知られていますが、逆に極端なカロリー制限や塩分摂取制限が危険であることも知られています。

2006年に厚生労働省が制定した「健やか親子21」では、妊娠全期間を通してすすめられる体重の増加は、妊娠前の体重に応じて、やせている人(BMI 18.5未満)で9〜12kg、普通の人(BMI 18.5以上25.0未満)で7〜12kg、肥満の人(BMI25以上)では個別に対応するとされています。1997年制定の日本産婦人科学会の「妊娠高血圧症候群の生活指導および栄養指導」では発症予防として1日当たり10g以下の塩分制限をすすめています。


主治医の先生や助産師さん・保健師さん・栄養士さんなどとよく相談してそれぞれの妊婦さんにあった予防をこころがけてください。
-13妊娠高血圧症候群の治療ってどうするのですか?

-13重症度や病気が起こった時の妊娠週数、赤ちゃんの発育不全の有無などにより管理方法(入院の必要性)や治療の内容が異なります。軽症では原則としてお薬の治療は控えることが勧められ、外来通院での食事のカロリー制限や塩分制限(1日7から8g以下)といった治療が中心となります。

また、重症では入院して血圧を下げるお薬や子癇(Q8参照)を抑える点滴注射を行い、妊娠週数が早い場合には赤ちゃんの成長を待つこともあります。ただ、お母さん、赤ちゃんの状態によっては帝王切開により赤ちゃんを産ませ、お母さん、赤ちゃんの治療を行う場合もあります。

-14.帝王切開になってしまうのですか?普通のお産はできますか?

-14妊娠高血圧症候群は、重症であっても必ずしも帝王切開になるとは限らず、それぞれの妊婦さんの状態によって、担当医師が帝王切開をするのか普通のお産ができるのかを検討します。
 
医学的にはおもに重症度(検査所見、血圧など)、赤ちゃんの状態(大きさ、週数など)などで判断されますが、お産を安全に行うために病院の看護体制(特に夜間のスタッフの人数)、新生児専門の先生がいるかどうかなど、病院の体制にもよります。つまり、妊婦さんの重症度が同じであっても病院によって分娩の方針がちがうこともあります。
 

また、ふつうのお産が選ばれた場合でも、途中で何かの異常がおこった時には、帝王切開に切り替えられることもあります。いずれの方法にせよ、担当の先生とよく相談することが重要です。

-15出産後、妊娠高血圧症候群はよくなりますか?

-15

赤ちゃんを産み、胎盤がお母さんの体から出ることで、多くのお母さんの状態はよくなります。

ただ重症の場合では、お産後もしばらく血圧が高い状態や尿にタンパクが出続けることがあり、お産後も血圧を下げたりけいれんを予防する薬を使わなければならないことがあります。

また、お産後84日以上、血圧が高い状態や尿にタンパクが出続ける場合は、ほかの病気がないかどうか詳しく調べることが勧められています。

 

-16将来、生活習慣病になりやすいって聞きましたが妊娠高血圧症候群はこれからの健康にも影響しますか?

-16 妊娠高血圧症候群はその後の生活習慣病と関係があると言われています。妊娠高血圧症候群に罹った人は、正常経過の妊娠であった人と比べると、お産後数十年たって、高血圧、脳血管障害、虚血性心疾患、糖尿病、脂質異常症などのメタボリックシンドローム(代謝異常症候群)や腎疾患などが見つかる頻度が高いことが報告されています。したがって、お産後も食事、生活習慣などの健康管理には十分注意が必要です。

執筆者 (あいうえお順)

大野レデイスクリニック  大野泰正

よつばウイメンズクリニック  片山富博
浜松医科大学  杉村基
名古屋大学  高橋秀憲
弘前大学  田中幹二
奈良県立医科大学  成瀬勝彦
東京医科大学八王子医療センター  野平知良
葛飾赤十字産院  三宅秀彦
埼玉医科大学  村山敬彦
東北大学  目時弘仁
北海道大学  森川守
愛知医科大学  渡辺員支

編集責任
神戸大学  山崎峰夫
弘前大学 田中幹二